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賃貸物件で入居者が亡くなると、事故物件として募集するにあたり、家賃をどの程度下げればよいのか判断に迷うオーナーは少なくありません。不動産会社から「下げないと決まらない」と言われても、いくらが妥当なのか、下げた状態がいつまで続くのかまでは、なかなか具体的な答えが得られないものです。
先にお伝えすると、家賃の下げ幅や減額期間を一律に定めたルールはありません。ただ、実務資料や裁判例を見ていくと、事故の種類と事故発生からの経過年数によって、影響の大きさが異なることが分かります。種類別の下落率と時間の経過を照らし合わせれば、自分の物件でどの程度の家賃を設定するかを判断しやすくなるでしょう。
本記事では、事故物件の家賃について、事故の種類ごとの下落率、家賃を元に戻す時期の目安、賃貸を続けた場合の損失額の考え方を順に解説します。読み終える頃には、募集家賃の設定と今後の見通しを、数字をもとに考えられるようになっているはずです。
この記事でわかること
- 事故物件の家賃を下げる義務の有無
- 自殺・他殺・孤独死ごとの家賃下落率の目安
- 下げた家賃を元に戻す時期と方法
- 告知義務の3年と家賃設定の関係
- 賃貸を続けた場合の損失額の計算方法
目次
事故物件の家賃は事故の種類によって下落幅が変わる

事故物件の家賃を考えるうえで最初に押さえておきたいのは、下げること自体は義務ではないという点と、下げ幅は事故の内容によって変わるという点の2つです。
1-1. 事故物件だからといって家賃を下げる義務はない
事故物件になったからといって、家賃を下げる法的な義務はありません。減額幅を定めたルールも存在せず、下げなければ借り手が見つかりにくいという実情を踏まえて、貸主が募集条件として自主的に家賃を下げています。
実際の水準としては、事故物件の家賃は一般に相場より2〜5割程度下がるとされています。公的な運用の例では、UR都市機構が住戸内で入居者が亡くなった住宅を「特別募集住宅」として募集しており、家賃は半額です。また、不動産適正取引推進機構(RETIO)の平成22年度調査でも、50%の減額とする例が比較的多い一方、50%を超える減額は見られず、全体では50%未満の減額が多数を占めていました。
ただし、一律に何割下げればよいというものではありません。事故の内容によって入居希望者が受ける心理的な影響が異なるため、次項で事故の種類別に確認します。
1-2. 自殺・他殺・孤独死では家賃の下落率が異なる
事故物件の家賃への影響は、亡くなった原因や発見時の状況によって異なります。全日本不動産協会が公表している対応事例では、自殺や他殺、孤独死による家賃への影響について、次のような目安が示されています。
| 事故の種類 | 家賃下落率の目安 | 減額が続く期間の目安 |
|---|---|---|
| 他殺(殺人) | 50%程度の減額 | 一次賃借人が居住する間は50%。二次賃借人にも5年程度は30%程度の減額 |
| 自殺 | 30%程度の減額 | 資料に期間の記載なし |
| 孤独死 | 原則として減額しない。発見までに日数を要した場合は10%程度の減額 | 資料に期間の記載なし |
| 自然死・日常生活の中での不慮の事故死 | 原則として減額の対象にならない | ― |
自然死や日常生活の中での不慮の事故死は、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合を除き、国土交通省のガイドラインでも原則として告知の対象外とされています。
全日本不動産協会の資料でも、死後2〜3日程度で発見された場合は、賃貸では借主への説明も賃料の減額も行わないとされています。孤独死では、亡くなった事実だけが家賃の下落に影響するのではなく、発見までの日数や室内の状態なども関係します。
事故物件の家賃下落はいつまで?

下げ幅の目安が分かると、次に気になるのは減額した家賃をいつまで続けるのかという点でしょう。
2-1. 家賃を下げる期間に決まったルールはない
事故物件の家賃について、「事故から何年間は減額する」と定めた法律や一律の基準はありません。事故の内容や物件の条件、入居希望者の反応を踏まえて、貸主が募集条件として決めることになります。
一方で、減額期間を考えるうえで参考になる運用例はあります。UR都市機構の特別募集住宅では、家賃半額の割引期間を物件によって1年間または2年間としています。市場全体の平均ではなく、実際に募集条件として設定されている運用例です。
また、全日本不動産協会の実務資料では、殺人の場合、一次賃借人(事故後に最初に入居する借主)が居住する間は50%、二次賃借人についても5年程度は30%程度の減額としています。自殺については30%程度の減額とされているものの、期間までは示されていません。
事故物件の家賃を何年間下げるかについて一律の答えはなく、事故の種類によっても異なると考えておく必要があります。
2-2. 告知義務の3年と家賃回復は別の基準
一方で、「事故物件の告知義務は3年と聞いたことがあるのに、なぜ5年も家賃を下げるのか」と疑問に思う方もいるでしょう。結論からいうと、告知義務の目安となる3年が経過したからといって、家賃も元の水準に戻せるとは限りません。
国土交通省「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」では、過去に人が亡くなった物件を賃貸する際、宅建業者がその事実を借主へ告げる期間の目安が示されています。自然死や日常生活の中での不慮の死などを除き、事案の発覚から概ね3年間は告知が必要です。
この3年という期間は、あくまで死亡事案を告知する期間の目安です。家賃を何年間下げるか、いつ元の水準へ戻すかについては定められていないため、3年が経過しても家賃を元の水準に戻せるとは限りません。
また、3年が経過した後でも、借主から死亡事案の有無を尋ねられた場合や、事件性・周知性・社会に与えた影響が特に高い事案では、引き続き告知が必要です。
事故物件の家賃を戻すタイミングの考え方

家賃を戻す時期を考えるとき、告知義務の「3年」を家賃回復の目安と受け取ってしまいがちですが、両者は別の基準です。
3-1. 下げた家賃は更新や再募集のタイミングで段階的に戻す
減額した家賃を元の水準へ戻す際は、契約更新などの節目に借主と話し合いながら、段階的に調整する方法があります。
たとえば周辺相場より2割下げて募集した場合、最初の更新時に1割、次の更新でもう1割と、少しずつ元の水準へ近づけていく方法です。一度に元の家賃まで戻そうとすると借主が退去する可能性もあるため、入居を維持したい場合は段階的な増額を検討できます。
ただし、普通借家契約では、更新時だからといって貸主の判断だけで家賃を上げられるわけではありません。借主が増額に納得しなければ、そのまま希望する金額へ変更することはできないため、双方で話し合う必要があります。入居中に家賃を増額する場合のルールは、次項で詳しく説明します。
3-2. 入居中に家賃を戻すには借主との合意が必要
やむを得ず借主が居住している間に家賃を上げる場合は、借主と話し合って変更するのが基本です。
借地借家法では、周辺の家賃相場や不動産価格、税負担などが変わり、現在の家賃が見合わなくなった場合には、貸主から増額を求めることが認められています。ただし、「事故物件だったため一時的に家賃を下げていた」という事情だけで、希望する金額まで上げられるとは限りません。周辺の家賃相場なども踏まえて金額を決め、借主と話し合う必要があります。
借主が増額に応じず、話し合いでもまとまらない場合は、民事調停を申し立てることになります。調停でも解決しなければ、訴訟で適正な家賃を争います。
なお、一定期間は家賃を増額しない特約を設けている場合、その期間中は貸主から増額を求めることができません。
3-3. トラブルを避けるなら退去後の再募集で家賃を戻す
借主との家賃交渉を避けるのであれば、現在の借主が退去した後、新しい入居者を募集するタイミングで家賃を設定し直す方法があります。事故からの経過期間や周辺の家賃相場などを踏まえて、減額幅を縮小したり、従前の水準に戻したりして募集できます。
一定期間だけ貸したい場合は、定期借家契約を利用する方法もあります。定期借家契約には更新がなく、契約期間が満了すると賃貸借契約が終了します。そのため、満了後は新たな入居者を募集するタイミングで、家賃などの募集条件を設定し直せます。事故物件を一定期間は家賃を下げて貸し、その後に条件を見直したい場合にも利用できる方法です。
ただし、定期借家契約は入居できる期間があらかじめ決まっていることから、長く住みたい入居希望者から敬遠される可能性があります。家賃を戻す時期を決めやすい一方で、入居者が決まりにくくなれば空室期間が長引くことも考慮しておく必要があります。
家賃を下げて賃貸を続けるかは損失額も見て判断する

下げ幅と期間の見通しが立ったら、賃貸を続けた場合にいくら失うのかを数字で確かめておくと、今後の判断がしやすくなります。
4-1. 家賃を下げている期間は差額分の収入が減る
家賃を下げて賃貸を続ける場合、減額している期間は、従前の家賃との差額分だけ家賃収入が少なくなります。たとえば従前の家賃が10万円で、事故後に7万円へ下げた場合、毎月3万円の減収です。減額期間が長くなるほど差額は積み上がり、その条件で何年間貸すかによって損失額も変わります。
また、事故後すぐに次の入居者が決まるとは限りません。募集開始から入居までに空室期間が生じれば、その間は家賃収入自体がなくなります。
4-2. 賃貸を続けた場合の損失額
家賃を減額して賃貸を続けると、どの程度の損失になるのか。具体例で計算してみましょう。
前提として、家賃に関する損失を次の2つに分けます。
(従前家賃-減額後家賃)×減額期間
従前家賃×空室期間
ここでは、従前家賃10万円の物件で自殺が発生したケースを想定します。1章で紹介した全日本不動産協会の資料にある「自殺は30%程度の減額」を当てはめると、減額後の家賃は7万円です。減額期間には一律の基準がないため、1年・2年・3年と続けた場合をそれぞれ比較します。
| 減額期間 | 家賃差額による損失 |
|---|---|
| 1年間 | 36万円 |
| 2年間 | 72万円 |
| 3年間 | 108万円 |
※月3万円の差額×各期間で計算。
さらに空室期間が発生すれば、期間中の家賃収入も損失に加わります。たとえば事故後3ヶ月の空室を経て入居者が決まり、そこから3年間を7万円で貸したケースでは、空室による損失30万円と減額による損失108万円を合わせて、家賃まわりの減収は合計138万円です。
実際の損失額は、物件の条件や入居の決まりやすさによって変わるため、一概には言えません。ただ、3年で100万円を超える減収が出る計算になると、家賃を下げて賃貸を続けること自体を見直す余地も出てきます。
4-3. 賃貸継続の負担が大きいなら売却も選択肢になる
事故物件でも、家賃を調整して入居者を募集し、更新のたびに段階的に家賃を戻しながら、賃貸経営を続けていくことはできます。
一方で、家賃をどこまで下げる必要があるか、減額がどの程度続きそうか、空室期間がどれくらい発生するか、原状回復などの追加費用がかかるかによっては、賃貸を続けるより物件を手放したほうが負担を抑えられるケースもあります。
1〜3章で確認した下落率・減額期間・家賃の戻し方と、本章で計算した損失額を並べたうえで、今後も賃貸経営を続けるかを検討します。賃貸継続の負担が大きい場合は、物件が今の状態でいくらで売れるのかを査定してもらい、今後も賃貸を続けた場合の収支と比較する方法もあります。
まとめ:事故物件の家賃と賃貸継続は今後の損失も踏まえて判断する

この記事のまとめ
- 事故物件でも家賃を下げる法的な義務はなく、下げ幅は貸主が決める。一般には相場より2〜5割程度下がるとされる
- 下落率は事故の種類で異なり、他殺50%程度、自殺30%程度、発見が遅れた孤独死で10%程度が目安
- 減額期間に一律の基準はなく、URの特別募集住宅では1年間または2年間の半額割引という運用例がある
- 告知義務の概ね3年は告知の期間であり、家賃を戻す時期を定めたものではない
- 入居中の増額には借主との合意が必要で、下げた家賃は更新や再募集の節目で段階的に戻していく
事故物件の家賃を下げて募集を続けるかどうかは、事故の種類ごとの下落率や減額機関の目安、今後どこまで家賃を戻せそうかを踏まえて判断します。
家賃を調整しながら賃貸経営を続ける方法がある一方、減額が長引けば、その分だけ家賃収入への影響も大きくなります。今回紹介した下落率や期間、損失額を参考に、賃貸を続ける場合の見通しを立ててみてください。
事故物件のご事情は一件ごとに異なり、適切な対応や売却方法も変わってきます。記事を読んでも判断に迷う、自分の物件がどう扱われるか知りたい。そんな段階でも構いません。
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この記事のまとめQ&A
事故物件になると家賃を下げる義務はありますか?
いいえ。事故物件になったからといって、家賃を下げる法的な義務はありません。減額幅を定めた一律のルールもなく、入居者が決まりやすくなるよう、貸主が募集条件として自主的に調整します。
事故物件の家賃はどれくらい下がりますか?
一般には相場より2〜5割程度下がるとされています。目安として、他殺は50%程度、自殺は30%程度、発見までに日数を要した孤独死は10%程度の減額とされる例があります。
事故物件の家賃はいつまで下げる必要がありますか?
減額期間を定めた法律や一律の基準はありません。事故の種類や物件の条件、入居希望者の反応などを踏まえて貸主が判断します。運用例として、UR都市機構の特別募集住宅では1年間または2年間、家賃を半額としています。
告知義務の3年が過ぎれば家賃を元に戻せますか?
必ずしも元に戻せるとは限りません。概ね3年という期間は、賃貸時に死亡事案を告知する期間の目安であり、家賃の減額期間や回復時期を定めたものではありません。
下げた家賃を元に戻すにはどうすればよいですか?
契約更新時に借主と話し合いながら段階的に増額する方法や、現在の借主が退去した後の再募集時に家賃を設定し直す方法があります。入居中に増額する場合は、貸主の判断だけではなく、借主との合意が基本です。


