
目次
親族が亡くなり、相続財産に事故物件が含まれていることがわかったら。
「この物件を相続しないといけないのか」
「もし相続するなら、どうやって手放すのが一番良いのか」
「相続税は安くなるのか」
そんな疑問が浮かぶと思います。
本記事では、事故物件を手放したいと考えている方のために、相続して売却する方法と、他の財産と一緒に手放す「相続放棄」について解説します。
さらに、相続税の計算時に問題になる物件の評価は、とても誤解の多いポイント。物件を相続しようとしている方は、必ず押さえておきましょう。
記事の後半では、事故物件の相続について誰に相談したらいいか?という疑問にもお答えしています。不安な気持ちを抱える方の、一助になれば幸いです。
※本記事は、2025年12月時点で確認できる法令・制度・公表資料をもとに作成しています。
この記事でわかること
- 「相続放棄」と「売却(仲介・買取)」それぞれのメリットと判断基準
- 相続放棄の「3ヶ月」の申請期限と、過ぎた場合のリスク
- 誤解の多い「相続税評価額」が原則下がらない理由と、減額申告の方法
- 相続放棄しても残る可能性のある「損害賠償」や「管理責任」の注意点
- 悩み別(売却・税金・法律トラブル)に、誰に相談すべきか
目次
事故物件の相続、3つの選択肢をメリット・デメリットで比較

事故物件を相続することになった場合、取れる選択肢は大きく分けて以下の3つです。
- 相続して一般仲介で売却する
- 相続して専門業者に買取してもらう
- 相続放棄する
それぞれのメリットとデメリットを確認しながら、ご自身の状況ではどの方法が最適か、一緒に確認していきましょう。
1.1 選択肢①:相続して一般仲介で売却する
一般仲介とは、不動産会社に仲介を依頼し、インターネットや広告を通じて広く一般の買い手を探す、最も標準的な売却方法です。
メリット
- 買取よりも高く売れる可能性がある
デメリット
- 買主への「告知義務」による売却後のトラブルリスクがある
- 買い手が見つかりにくく、売却に時間がかかる
一般仲介を選ぶ一番のメリットは、やはり買取よりも高い価格で売れる可能性があることです。買い手は個人の方になるので、もし物件の事情を理解した上で納得してもらえれば、市場価格に近い金額で取引できる可能性も出てきます。
一方で、注意しておきたい点が主に2つあります。
1つ目は「告知義務」です。売主は、その物件で過去に起きた人の死(自殺、他殺、あるいは長期間発見されなかった孤独死など)の事実を、買主へ正確に伝えなければならないケースがあります。告知義務は国土交通省のガイドラインによって範囲が定められており、告知が不十分だと、売却後に契約不適合責任を問われ、損害賠償のトラブルに発展してしまうリスクがあるのです。
なお、自然死や日常生活の中での不慮の死など、ガイドライン上「宅地建物取引業者が告げなくてもよい」とされるケースもあるため、個別事情に応じた判断が必要になります。
2つ目は、売却に時間がかかる点です。心理的な抵抗感から買い手はすぐに見つからないケースも多く、売却が長期化しやすいことも考えておく必要があります。当然ながら、売れるまでの間も、相続人は物件の管理や固定資産税の支払いを続ける必要があるということは押さえておきましょう。
出典:国土交通省『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』
1.2 選択肢②:相続して専門業者に買取してもらう
専門業者による「買取」は、一般の買い手を探す仲介とは異なり、不動産会社が直接買主となって物件を買い取る方法です。
メリット
- 売却スピードが非常に早く、早期に現金化できる
- 契約不適合責任が免責になることが多い
- リフォームや特殊清掃をせずに買い取ってもらえる
デメリット
- 一般仲介で売却するよりも売却価格が安くなる
買取の大きなメリットは、売却後のトラブルリスクを大幅に減らせる点です。買主は事故物件の取り扱いに慣れた専門業者であり、物件の状況を正直に伝えたうえで買い取ってもらうことで、売却後の契約不適合責任を免除する特約を結べるケースが多くなります。
また、リフォームや特殊清掃をせず、現状有姿で買い取ってもらえるケースが一般的なのも、相続人にとっては大きな利点でしょう。金銭的・時間的な負担を最小限に抑えられます。
ただし、売却価格は一般仲介よりも安くなる傾向があります。相続税の納税期限が迫っている場合や、物件を持ち続ける精神的な負担から早く解放されたいなど、価格よりも確実性やスピード、将来のリスク回避を重視する方に適した売却方法です。
1.3 選択肢③:相続放棄する
事故物件だけでなく、借金など他のマイナスの財産が明らかに多い場合に有効なのが相続放棄です。これは、プラスの財産もマイナスの財産も一切引き継がないための法的な手続きを指します。
メリット
- 事故物件の管理責任や固定資産税の支払い義務から解放される
- 被相続人が負っていた損害賠償義務を引き継がなくてよい
- 他のマイナスの財産もすべて放棄できる
デメリット
- プラスの財産もすべて手放すことになる
- 一度受理されると原則として撤回できない
- 相続を知った時から「3ヶ月以内」に家庭裁判所への申述が必要
相続放棄の手続きで、特に注意すべきは期限です。原則として、ご自身が相続人であると知った時から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申述しなくてはなりません。
この3ヶ月という期間(熟慮期間)で財産調査が間に合わない場合は、家庭裁判所に期間を延長してもらう申し立てが必要です。
また、一度相続放棄が受理されると、後から価値ある財産が見つかったとしても、原則として取り消しはできません。すべての財産を手放すことになるため、慎重な判断が求められます。
事故物件を相続する場合の相続税評価額は安くなる?

事故物件を相続することを選んだ場合、次に問題となるのが相続税です。相続税の計算は、預貯金や不動産など、すべての相続財産の価値を合計して行います。
ここで気になるのが「事故物件を、いくらの価値として計算するのか」という点です。この章では、相続税の算出の元となる「相続税評価額」が、事故物件の場合どう決まるのかを詳しく見ていきましょう。
2.1 事故物件でも相続税評価額は下がらない
「事故物件なのだから、その評価額も安くなるはず」と考えるかもしれませんが、注意が必要です。結論から言うと、事故物件であっても、不動産の相続税評価額がそのまま安くなることは原則としてありません。
なぜなら、土地の相続税評価額は、「路線価(ろせんか)」や固定資産税評価額というという公的な価格に基づいて計算されるためです。
路線価とは、国税庁が道路ごとに設定している「1平方メートルあたりの標準価格」を指します。固定資産税評価額とは、土地や家屋などの固定資産の価値を評価した価格です。
重要なのは、路線価や固定資産税評価額には、その土地の上で事故があったかどうかといった個別の事情は一切考慮されていない点です。
事故の事情が反映されていない路線価や固定資産税評価額を基準に計算する以上、算出される相続税評価額も安くはなりません。
出典:国税庁『土地家屋の評価』
2.2 時価評価での減額申告は可能か?
原則として、事故物件だからといって自動的に相続税評価額が下がる仕組みはありません。ただ、「明らかに実際の価値からかけ離れている」と判断されるような特殊なケースでは、例外的に“時価に近い金額”で申告できる制度があります。
これは、国税庁が定める「財産評価基本通達」の中にある例外規定(総則6項)で、簡単に言うと 「通達の評価方法では不公平になる場合だけ、時価を使ってよい」という仕組みです。
ただし、この例外が事故物件に適用されることは多くありません。心理的瑕疵(いわゆる事故物件の事情)は金額への影響が数値化しづらく、「実際の価値と大きくズレている」と税務署に認めてもらうのは相当ハードルが高いのが実情です。
また、時価で申告する場合は、一般の不動産会社の査定書だけでは根拠として不十分と判断されることが多く、時価が著しく低いことを客観的に示すためには、不動産鑑定士が作成する「不動産鑑定評価書」が事実上必須となります。
鑑定書を添付すれば必ず減額が認められるわけではないため、まずは「そもそも、この物件で減額申告を試みる価値があるのか」を、相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
相続放棄を検討する場合の申告期限と注意点

相続放棄を選択する場合には、実行する前に確認すべき重要な注意点があります。
特に「3ヶ月」という申請期限や、放棄しても一定の責任が残るケースは要注意です。
3.1 相続放棄の期限「3ヶ月」と手続きの流れ
相続放棄は、原則として「ご自身のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に手続きを完了させる必要があります。
この3ヶ月の期間は「熟慮期間」と呼ばれます。もし、この期間内に家庭裁判所への手続きをせず、何もせずに過ぎてしまうと、すべての財産と借金を相続する「単純承認」をしたものとみなされてしまいます。事故物件の管理責任や負債もすべて引き継ぐことになるため、注意が必要です。
手続きは、亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、相続放棄の申述書や亡くなった方と申述人の戸籍謄本などの必要書類を提出して行います。
もし、財産の調査に時間がかかり、3ヶ月以内に相続するか放棄するかを判断できない特別な事情がある場合は、期限が来る前に家庭裁判所に申し立てることで、熟慮期間を延長してもらえるケースもあります。
3.2 注意点①相続放棄と損害賠償義務の関係
相続放棄が認められれば、損害賠償義務を引き継ぐ必要はありません。
亡くなった方が負っていた損害賠償義務、例えば孤独死による特殊清掃費用や大家さんへの原状回復費用などは、法律上「マイナスの財産」として扱われます。そのため、相続放棄の手続きを家庭裁判所で行い、正式に受理されれば、相続人はこれらの支払い義務を免れることができます。
ただし、注意すべきは「法定単純承認」に該当してしまうケースです。これは、相続放棄ができなくなる行為のことを指します。例えば、相続放棄の手続き前に、亡くなった方の遺産(預貯金や遺品など)を一部でも使ったり、売却してしまったりすると、財産を相続する意思があったとみなされます。
その結果、相続放棄が認められなくなり、損害賠償の義務もそのまま引き継ぐことになってしまうのです。
3.3 注意点②:相続放棄をしても管理責任が残るケース
相続放棄をしても、物件の管理責任が残ってしまうケースがある点に注意が必要です。以前は相続人全員が放棄すると、最後に放棄した人に管理責任が残る可能性がありましたが、2023年4月の民法改正でこのルールが変更されています。
現在の法律では、亡くなった方(被相続人)と同居していたなど、その物件を「現に占有している」相続人が放棄した場合、他の相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存する義務(管理責任)を負うことになりました。逆に、遠方に住んでいて同居もしていなかった相続人が放棄した場合は、この責任を負うことはありません。
もし相続人全員が放棄し、大家さんなどの利害関係者が家庭裁判所に申し立てると、「相続財産清算人」が選任されます。現に占有している相続人は、この清算人が管理を始めるまで、例えば空き家が倒壊して近所に迷惑をかけたりしないよう、最低限の管理を続けなくてはなりません。
出典:法務省『財産管理制度の見直し(相続の放棄をした者の義務)』
事故物件の相続で困った時の相談先

事故物件の相続では、売却のこと、税金のこと、法律のことなど、考えるべきことが多岐にわたります。これらを一人で抱え込んで判断するのは、とても大変なことです。
ここでは、悩みの内容に応じて、どの専門家に相談するのが最適なのかをご紹介します。
4.1 事故物件の査定と売却相談 → 事故物件専門の不動産会社
事故物件を相続したら、まず「その物件にいくらの売却価値があるのか」を把握することが最優先です。物件の価値がわからないと、相続税がいくらになるのか、あるいは売却益で負債を返せるのかといった計算ができず、相続すべきか放棄すべきかの判断ができないためです。
しかし、この査定を一般の不動産会社に依頼しても、取り扱い経験がなく断られたり、ノウハウがないために不当に低い価格を提示されたりするケースも少なくありません。
そのため、事故物件の売却価値を適正に知るためには、専門の不動産会社に相談するのが賢明でしょう。専門業者は事故物件の相場や売却ノウハウを熟知しているため、適正な価格を提示してくれる可能性が高いです。
その上で、時間がかかっても高く売る「一般仲介」と、早く確実に手放す「買取」のどちらがご自身の状況に適しているか、両方の選択肢を提案してくれる実績豊富な会社を選ぶようにしてください。
4.2 相続放棄の手続き・法律トラブル → 弁護士・司法書士
相続放棄の手続きや法律トラブルなど、法的な判断が必要な場合は弁護士や司法書士といった法律の専門家に相談しましょう。
特に、以下のようなケースに該当する場合は、早急に相談することをおすすめします。
- 相続放棄の期限(3ヶ月)が迫っている、あるいは延長(伸長)の手続きをしたい
- 大家さんや管理会社から、高額な特殊清掃費用や原状回復費用を請求されている
- 他の相続人との間で、誰が事故物件を相続するかで揉めている
- 相続放棄が認められなくなる「法定単純承認」に該当するか不安がある
これらの法的な手続きや、すでに発生してしまった金銭トラブルの交渉は、弁護士や司法書士の専門分野です。ご自身で対応しようとすると、期限を過ぎたり、不利な条件を飲んでしまったりするリスクがあります。
4.3 相続税の計算・申告 → 税理士
相続税の計算や申告は、税理士の専門分野です。まず、相続財産の総額が基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えそうで、そもそも相続税申告が必要かどうかを知りたい場合は、税理士に相談するのが確実です。
ほかにも、「事故物件の売却に時間がかかりそうで、相続税の納税資金をどう用意するか」といった、納税の方法に関する相談や、「孤独死に伴う特殊清掃費用などを、相続財産から差し引いて申告できるのか」といった税務判断も求められます。
上記のような複雑な税務処理や申告を適切に行うためにも、相続案件の経験が豊富な税理士のサポートが不可欠と言えるでしょう。
出典:国税庁『相続税の計算』
事故物件を相続したら、まず専門家へ相談を

事故物件の相続についてのまとめ
- 事故物件の相続では「一般仲介」「買取」「相続放棄」の3つの選択肢がある
- どの選択肢を選ぶかは「物件の売却価値」と「他の財産・負債」の比較で決まる
- 相続放棄には「3ヶ月以内」という期限があるため、判断を急ぐ必要がある
- 相続税評価額は原則(路線価)では下がらず、時価で減額申告できる場合がある
- まずは専門家に相談することが第一歩
事故物件を相続することになった場合、相続して売却する(一般仲介・買取)か、相続放棄をするかという選択を迫られることになります。
どの選択肢が最適かは、その物件の売却価値が、故人の負債やその他の財産と比べてどうなるかで決まります。そして相続放棄を選択する場合、3ヶ月という期限があるということも忘れてはいけません。
まずは専門家に相談し、物件がいくらで売れそうかと、他にどのような財産や負債があるかを確認する必要があります。
一人で抱え込まず、ご自身の状況に合わせて、本記事で紹介した専門家に相談することから始めましょう。
手放すかどうか迷っている方も、まずは「売ればいくらになるのか」を知ることが大切です。
売却額を把握すれば、次の一歩をより現実的に考えられます。
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この記事のまとめQ&A
事故物件を相続した場合、どんな選択肢がありますか?
事故物件を相続した場合の主な選択肢は①物件を相続して一般仲介で売却する、②相続して専門業者に買取してもらう、③相続放棄する、という3つに大別されます。
事故物件を相続しても相続税評価額は下がるのですか?
原則として、事故物件であっても相続税の評価額(路線価に基づく土地・建物の価値)は自動的には下がりません。例外的に「時価評価申告」による減額が認められるケースもありますが、実務的にはハードルが高いとされています。
事故物件の相続放棄を検討する場合、どのような期間・手続きが必要ですか?
相続放棄を検討する場合、原則として「その相続人が相続開始および自分が相続人であることを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所への申述が必要です。この期限を過ぎると単純承認とみなされ、マイナス財産も引き継ぐ可能性があります。
相続放棄をした場合でも管理責任が残ることがありますか?
はい。例えば、相続人が被相続人と同居していたり、その物件を実質的に占有していた場合などでは、相続放棄をした後も「保存行為」(建物の修繕・防災管理など)を続ける義務が生じるケースがあります。
事故物件を売却か相続放棄かを判断する際に何を確認すべきですか?
主に「物件を相続して売却した場合にどれほど現金化できるか」「物件にまつわるマイナス要因(特殊清掃費用・原状回復・管理義務)やその他の借金・負債との関係」「相続することで将来残るリスク(固定資産税・管理費・損害賠償など)」を比較検討することが重要です。



